東京都庁バリアフリートイレ

東京都庁第二本庁舎 車椅子使用者対応トイレ 2022


この計画は、西新宿にある東京都庁第二本庁舎の「バリアフリートイレ」です。

~ 変わります とうきょうのトイレ ひとりひとりのために ~

” だれでもトイレから それぞれのトイレへ “

出典:多様な利用者のニーズに配慮したユニバーサルデザインのトイレづくりハンドブック

東京オリンピック・パラリンピック競技大会のために準備された「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」、バリアフリー法に基づく建築物移動円滑化基準の改正(2021)を経て、東京都はトイレの新たな方向性を示しました。

建築物移動円滑化基準の改正後に東京都庁内で初めて完成する「バリアフリートイレ」として、利用集中を解消する「機能分散」と、不特定多数が利用する2000㎡以上の施設に新たに求められる「電動車いすが回転できる広さ(直径180㎝以上の円が内接できるスペース)」を確保することを目指しました。
温かいホスピタリティを感じる居心地のよいトイレとなるように努めています。

複数のバリアフリートイレを用意するメリット

従来は、男女別トイレと併設して1ヶ所整備されることが多かったバリアフリートイレですが、この計画では、バリアフリートイレのみを2ヶ所整備しています。男女共用のバリアフリートイレが複数あることで利用待ちを減らすことができます。外見ではわかりにくいオストメイトやトランスジェンダーにとっても、待たせることを気にせずにすむため利用しやすくなります。

建物全体でバリアフリー機能の配置を考える

どのバリアフリー機能をどう配置するか。来庁者が利用する周囲のトイレで不足している機能を調査しその結果から検討しました。まず地下階に無かった「介助用ベッド」と「オストメイト用設備」を整備することに決定。この2つの設備は共に利用時間が長いことが想定されるため別便房になるように配置しました。「子ども連れ設備」は同階の男女別トイレにもありましたが、より広く段差なくベビーカーで利用しやすいトイレとなることを考え整備することになりました。

2つのブースに機能を分散

トイレごとに優先利用者に応じた機能を整備しています。

1.「車いす使用者(電動及び手動)」「介助用ベッド使用者」向けトイレ

・電動車いす使用者対応(180cm円内接)
・介助用ベッド
・男女共用

電動車いすでも回転しやすい広いスペースを確保しています。介助や同伴が必要な人が介助者と一緒に利用しやすくなるよう中央にカーテンを吊り、介助者が同伴利用する場合のプライバシーの確保にも配慮しています。また、手洗器と便器の間には車いすに座った姿勢で利用しやすい低めの荷物フックがあります。

どの方向からも寄り付きやすいコーナー型の手洗器を設置しています。このトイレ整備に合わせて新たに開発された製品です。奥行きがあり足が深く入るため無理のない姿勢で手が洗えます。鏡を少し浮かせカウンターに物が置きやすいドライゾーンを設けました。

2.「オストメイト」「車いす使用者(手動)」「子ども連れ」向けトイレ

・オストメイト用設備(温水シャワー)
・手動車いす使用者対応(150cm円内接)
・着替え台
(オストメイト着替え・幼児おむつ替え)
・おむつ交換台
・ベビーチェア
・男女共用

こちらのトイレはもう一方より狭いながらも、手動車いすやベビーカーであれば十分に回転できる広さになっています。利用しやすいスペースを確保しながら必要な器具をコンパクトにレイアウトしています。

オストメイト用設備として、温水シャワー付き流し、鏡、フック、カウンター、着替え台を設置。着替え台は幼児のおむつ替えにも使えます。

子ども連れ設備として、ベビーチェアとおむつ交換台を設置。こちらのトイレには小さめの手洗器をコーナーに設置しています。多くの器具を短い動線で利用できます。

アルコーブと木のベンチ

これら2つのトイレは、廊下から少し膨らんだスペース(アルコーブ)に面しており、廊下を歩く人々に気兼ねすることなく出入りが可能です。アルコーブに設置された多摩産材の木製ベンチは、利用待ちや同伴者の待機スペース、荷物整理の場所として利用できます。コロンとした便器のような形がリラックスした雰囲気をつくりだしています。

ピクトグラムのサイズで優先利用を表現

扉のサインは、ピクトグラムの大きさで利用の優先順位を表現。自然に優先的に目に留まるようにしました。縦長の入口サインには主な利用対象者を表示しています。廊下側には、大きな矢印と共に男女別トイレのピクトグラムを表示し、バリアフリートイレ以外のトイレも使用できる方々を他のトイレへ誘導しています。

壁に直接メッセージを掲示。よりダイレクトに伝えます。

手洗器の横にはお知らせや注意書きのための掲示板も用意しています。

コントラストのある色彩

腰壁を青緑色、その他の壁と器具をアイボリーでまとめ、ジェンダーレスでやさしい空間イメージになるように色を選びました。コントラストのある配色により視力が弱い方でも器具を認識しやすいよう配慮しています。

温かみのある照明

地下の自然光が入らないトイレにとって照明は大切な要素です。光の色温度を3500K(温白色)とし自然な色あいに見えると同時に温かみを感じる照明としています。

東京都庁第二本庁舎の地下1階で利用者の方々をお待ちしています。
地下のひっそりとしたトイレだからこそ、必要な方にいつでも届くトイレになってもらいたいと思います。

このトイレは、東京都の「トイレづくりハンドブック」に掲載されました。
これからのトイレのあり方が、多くの先進事例と共にわかりやすくまとめられています。
ぜひご覧ください。

東京都福祉保健局 発行
多様な利用者のニーズに配慮したユニバーサルデザインのトイレづくりハンドブック

東京都庁第二本庁舎 車椅子使用者対応トイレ

設計期間|2020年12月-2021年8月
監理期間|2021年12月-2022年6月
用途|庁舎
構造|SRC造(改修新設部分はS造)

設計|
オープンヴィジョン(統括・建築)、ハーモニウス(構造)、小原技術士事務所(機械設備)、タクトコンフォート(電気設備)、タティモ(サインデザイン)

写真|小石川 茂(1,2,3,4,7,8,12,13)
   オープンヴィジョン(5,6,9,10,11)


多機能トイレから バリアフリートイレへ

2021年、バリアフリー法に基づく建築物移動円滑化基準の改正により、より重度の障害、介助者等に配慮したトイレ設計が求められるようになりました。従来「多機能トイレ」「多目的トイレ」「誰でもトイレ」と呼ばれていた、高齢者・車いす使用者・子ども連れ・オストメイト等が使いやすいトイレの総称も、『多機能便房』から『高齢者障害者等用便房(バリアフリートイレ)』へと変更されました。

従来の「多機能便房」は1つのトイレに複数の機能があることが多く、利用者が集中して利用が困難になる問題が起きていました。その解消のため、トイレ内及び施設全体での機能分散を考慮しながら、個別機能を備えた便房「バリアフリートイレ」の複数設置が推進されることになりました。

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